5月に入ると、夕方の空気がどこかやわらかくなる。週の疲れを引きずりながらも、「今夜は少し贅沢しようか」という気持ちが自然と湧いてくるのが、土曜日という日の不思議なところだと思う。
松井山手駅から歩いて6分。住宅街の落ち着いた一角に、その日もオレンジ色の灯りが灯っていた。鉄板バル藤村商店。開店前の午後5時、フジムラさんはすでに鉄板の前に立っていた。
この記事は、そんな土曜の夜の一部始終を追いかけたものです。特別感があると口コミで広がるこの店が、どんな準備と想いで夜を迎えているのか。ぜひ最後まで読んでみてください。
こんな方におすすめ
- ✅ 松井山手・京田辺エリアで週末の行きつけを探している方
- ✅ 鉄板焼きやステーキをカジュアルに楽しみたい方
- ✅ 夫婦や友人と、ゆっくり話せる雰囲気の良い店を知りたい方
- ✅ 女子会や少人数グループでのディナーに使えるお店を探している方
- ✅ 「また行きたい」と思える行きつけのお店を見つけたい方

17:00 仕込みの時間。鉄板と向き合う、静かな集中
「土曜日は早めに仕込みを終わらせておきたいんですよね。お客様の入り方が読みにくいから」
藤村知広シェフ(業界歴33年)は、白いタオルで鉄板の表面をひと拭きしながら、そう話してくれた。厚さ約25mmの分厚い鉄板は、蓄熱性が高く、一度しっかり温度を上げれば肉の表面を瞬時に焼き固めることができる。でもそのぶん、扱いには経験と集中力が要る。
「鉄板って、同じ温度設定でも日によって微妙に違うんです。だから毎回、焼き始める前に必ず状態を確かめます」
仕込みの段階で確認しているのは鉄板だけじゃない。その日届いた肉の状態、野菜の水分量、仕込んだ生地の具合。京田辺・久御山・八幡・宇治田原から届く地元野菜は、同じ品種でも季節によって甘みや歯ごたえが変わる。そのひとつひとつに目を向けながら、その日の調理方針を決めていく。
ホテルのレストランで接客経験を積み、独立して13年。「気取らず普段使いできる鉄板焼きの店を作りたい」という想いから始まったこの店は、今も変わらずその初心を大切にしている。
18:30 開店。最初のお客様が来る瞬間がいちばん好き
「正直なところ、どんなに慣れてもこの瞬間は緊張します。でも同時に、一番テンションが上がるのもここなんですよね」
18席のこじんまりとした店内に、最初の来客は常連の夫婦だった。「また来ちゃいました」という奥さんの笑顔に、フジムラさんが「ぜひどうぞ、お好きな席へ」と返す。この距離感が、藤村商店らしい。
オープンキッチンだから、鉄板の前に立つフジムラさんの動きがそのまま見える。肉が鉄板に乗る瞬間の「ジュッ」という音、立ちのぼる煙、じわじわと広がる香ばしい匂い。席についているだけで、料理ができあがっていく過程がライブで楽しめる。
この日の一番乗りは牛ハラミステーキ。A5ランクの飛騨牛とは別に、宮崎産の黒毛和牛も仕入れている。「どちらが美味しいというより、その日の気分や食べる量に合わせて選んでもらえるように、ということで」とフジムラさん。肉のポテンシャルを最大限に引き出すために、産地・部位・熟成度を見極め、鉄板の温度を肉ごとに使い分ける。それが33年の積み重ねから生まれた流儀だ。
✓ ここまでのポイント
- 厚さ25mmの鉄板を毎回丁寧に確認し、肉や食材ごとに温度と焼き方を変えている
- オープンキッチンで調理のライブ感が楽しめる、参加型の食体験が藤村商店の魅力
- 地元野菜・国産肉にこだわりながら、気取らず普段使いできる価格帯(3,000円〜6,000円)を守っている
19:30 満席の熱気。名物「うそつきピザ」に歓声が上がる
19時を過ぎると、店内はほぼ満席になっていた。女性グループのテーブルから楽しそうな声が聞こえてくる。「今日うそつきピザ頼んだ?」「もちろん!」——この会話、一晩に何度耳にしただろう。
名物の「うそつきピザ」は、お好み焼き用の粉を生地に使った独自メニュー。仕上げにバーナーでさっと炙るその姿が、また格好いい。「ピザじゃないけど、なぜかピザを食べた満足感がある」とお客様に言わせてしまうのが、この一品の正体だ。
「うそつきピザは毎回取り合いになります。絶対に外せない一品。何を食べても美味しいし、コスパも良くて毎月来ちゃう」
40代・女性(地元常連客)
「一人でふらっと入っても、グループで来ても、どっちも居心地がいい。また来たくなるお店です」
30代・女性
こういった声がつながりを生み、口コミが口コミを呼んでいる。松井山手という住宅地エリアで13年続いてきた理由は、料理の美味しさだけじゃなく、「またここに来たい」と思わせる空気感にあるのかもしれない。
21:00 会話が弾む夜。滞在時間制限なしという選択
「うちは時間制限を設けていないんです。ゆっくりしてほしくて」
食べ終えた後も、グラスを傾けながら話し込んでいるテーブルが多い。飲み放題付きのコースを選んでいるグループもいれば、単品をゆっくり頼み直しながら長居しているカップルもいる。誰も急かされていない。
「ホテルで働いていた頃、サービスの基本は『居心地の良さ』だと学びました。でも正直、ホテルって少し格式があって入りにくい面もある。だからここでは、その居心地の良さだけを残して、敷居はゼロにしたかった」
料理と会話を楽しめる距離感。人と人がつながる空間づくり。それがフジムラさんの言葉にしたくて独立した理由だ。
14人以上からは貸切にも対応しているので、歓送迎会や誕生日パーティーにも使いやすい。誕生日ケーキの持ち込みもOKだから、サプライズ演出だって叶う。
22:30 閉店後。明日の仕込みを考えながら、鉄板を磨く
最後のお客様が「また来ます」と帰っていくと、店内に静けさが戻ってきた。フジムラさんは鉄板をひと通り磨き上げながら、今日の振り返りをする。「あのテーブルの肉の焼き加減、もう少し早く上げてもよかったかな」——完璧に見えた夜の中にも、自分なりの反省がある。
「33年やってても、毎回同じ気持ちで焼けないのが鉄板の面白いところなんですよね。だから飽きない」
土曜の夜は、週の中でいちばん熱量が高い夜だという。それはお客様の気持ちが高揚しているからだけじゃなく、フジムラさん自身もそのエネルギーに引っ張られているからだろう。
特別感は、意図して作るものじゃない。毎週続けることで、自然と積み重なっていくものなのかもしれない。
まとめ:松井山手に、あなたの土曜の夜を預けてみてほしい
鉄板バル藤村商店の土曜の夜に密着してみて、改めて感じたのは「特別感は距離の近さから生まれる」ということ。オープンキッチンで調理が見えること、名前を覚えてくれること、急かされないこと。どれも大げさじゃないけれど、積み重なると「ここが好きだ」という気持ちになる。
なお、通常火曜日は定休日ですが、4月28日(火)と5月5日(火)はゴールデンウィーク特別営業を予定しています。連休中に松井山手でゆっくりディナーをお探しの方には狙い目です。ぜひどうぞ。
週末の夜、ふと「どこか美味しいところ行きたいな」と思ったときに、思い出してもらえる店でありたい——フジムラさんはそう話していた。その言葉通りの夜が、松井山手の小さな鉄板バルでは毎週続いている。
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